第1章 前編
「まさかの両思いですか?やだ、嬉しい」
「真顔だけど、それ本気で言ってる?」
「元々表情は乏しいほうです。アーデン宰相こそ本気で言ってるんですか?一般兵に選択肢を委ねるなんて、普通は即、断りますよね?」
「別に受け入れるとは言ってないけど?」
「そうですか。どうやら私の儚い恋心は弄ばれたようですね。一国の宰相がなんとも大人気ない。あぁ、身も心も血塗れてしまいました」
ユーリは大袈裟に肩を落とし溜息を吐いた。
「なに、本気でオレのこと好きなわけ?」
「だから最初からそう言ってるじゃないですか」
「とてもそうは見えないけど」
「勝手に人の思いを否定しないでください。宰相こそ、何故一般兵である私に構ってるんですか?もしかして宰相でありながら暇を持て余してるんですか?だから暇つぶしに私の相手をしていると?」
「…随分辛辣だねぇ。オレ、一応ここの国では偉い方なんだけど」
「これは大変失礼をしました。人の恋心を弄ばれて腹が立ったもので」
自分で言っておいて何だが、いつまでこのやり取りは続くのだろうか。
相手が相手なだけにそう簡単に事が運ぶとは思ってないが、だんだんベクトルが違う方向へ向かってる気がしてならない。
目の前の男が何を考えているのか分からないし、素直に開放してもらえる気配もない。
もし奇跡的に開放されたら、即座に何処かの国へ亡命したいところだ。
「…で、その設定いつまで続くの?」
話の軸がそれ始めたと思ったから、何とも雑に軌道修正された。
辛気臭い笑顔はそのままに、彼の眼光は鋭い。
あっこれ、私死んだわ。
まるで冷たい刃物を突きつけられてる感覚に、ユーリは素直にこの状況を受け入れることにした。