第2章 中編
アーデンは暫く考え込んだが、聞き出したところで正直に胸の内を話さないだろう。
たった数日のやり取りで彼女の性格を把握してしまったアーデンはそっと苦笑すると、話題を変える為最近疑問に思っていることを尋ねた。
「オレが言うのもなんだけど、君って普段の生活はどうしてるの?」
食事とか寝床とか…風呂とか。
ボロボロの姿の彼女はまるで野生児のようだった。
まさか自然の中で暮らしてるとでも言うのではないかと思っていたら、案の定そう答えが返ってきた。
食事はその辺に生えてる草花や果実。寝床はボロボロの空家。
風呂は川ですませていると。
「川って、今はまだ暖かいからいいけど冬は死ぬよ?」
「気合ですよ。そのくらいで死ぬほど弱くありません」
「…はぁ、年頃の女性なはずなのに随分な日常を送っているね」
「…おかしいですね。私の目の前にいる王子様も随分な生活を送っているようですが」
彼女に指摘されて、それもそうかと笑ったアーデン。
王子と呼ばれるには程遠い身なりで、更には命を狙われている。
どちらかと言えば、犯罪者かホームレスという言葉の方が合っているかもしれない。
「そうだね、じゃぁ君には特別に王子である証拠を見せてあげようか」
「権力を振りかざして何する気ですか。遠慮します」
アーデンの提案を即答で断った彼女。
だが、その回答は想定内のものであったので、アーデンは構わず彼女に近づきその手を掴むとその場を離れた。
最初は抵抗していたが、抵抗しても無駄だと分かったのか気が付けば大人しくついてきていた。
繋がれている手。
そこから伝わる暖かい体温が、不思議と心地よかった。