第2章 中編
遺跡での出会いをきっかけに、二人はよくここで遭遇するようになった。
特に約束したわけではないが、彼女がここに留まっているので、アーデンが訪れれば自然と再会することになる。
「全国各地を忙しく回っていると聞いていたのですが、もしかして暇なのですか?」
会うたびに嫌味を言われるが、それも慣れたものだ。
何だかんだでアーデンが頼めば歌を歌ってくれる彼女。
どうやらそこまで嫌われてないらしい。
「アーデン」
ふと、物思いに耽っていると何時の間にか歌い終わったのか彼女が傍まで来ていた。
視線の先には、肌を隠すための厚く覆われたマント。
「…何?」
向けられた視線に思わず身構えるアーデン。
病を治している身でありながら、自らその病に侵されている。
それを知った彼女はどんな反応をするのだろうか。
呆れるか、馬鹿にされるか…それとも…
「それ以上、力を使わない方がいい」
彼女はアーデンの肩にそっと手を触れると、複雑な表情をしていた。
「…なんで?」
分かってはいたが、彼はあえて聞いてみた。
見えている皮膚だけでは浸食は分からない。
彼女の真意が知りたかった。
「知っているくせに、とことん捻くれた性格をしていますね」
「…は?」
「ただでさえ心が穢れているのに、更に身体まで穢してこれ以上どうなりたいんですか」
「…取り合えず、喧嘩売ってると捕らえていいのかな?」
「まさか、私は心配しているのですよ」
「とてもそうは見えないんだけど」
アーデンの肩から手を離した彼女は肩を竦ませた。
そして振り返り滝の方へ足を進めていく。
「どうしてそこまでして民を救うのですか」
彼女は振り返らず、そのままアーデンに問いかけた。
「それは、彼らが助けを求めてくるから?」
「自己犠牲がお好きなんですか?」
「失礼だね。善良な王子だから、ほっとけないんだよ」
「……そうですか」
そう言ったきり黙ってしまった彼女。
あっさり終わった会話に少し肩透かしを食らう。
彼女が何を考えているのかまるで分からなかった。