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闇夜の雫【FF15】

第2章 中編



力は失っても、彼女には歌が残されていた。

昔祖母から教えられた、異国の言葉で奏でる歌。
その歌には何かしらの力が宿っているらしいが、私はまだその力を発揮したことがない。

まぁ今更もうどうでもいいのだが。


「そういえば、命を救ってくれたお礼をしていませんでしたね」

彼女はふと思い出したかのように彼を振り返った。

礼は先ほど述べたのだが、一応命の恩人なのでそれ相応の何かを返すのが道理なのだろう。

と言ってもあげれるものなど何もないのだが。

「あぁ、別に気にしなくていいよ。欲しい物なんてないし」

「そうですか、では私の歌を差し上げましょう」

「相変わらず人の話を聞かないね」

「それはあなたもでしょう」

売り言葉に買い言葉、そんなやり取りをしているとふと彼が笑った。

「じゃぁお願いしようかな」

アーデンは近くの岩に腰を掛けると、彼女に視線を向ける。

「ではあなたの正式名称を教えてください」

「あれ、オレのこと知ってるんじゃないの?」

「世間に疎いものでして、王子であるあなたの名前はよく呼ばれているものしか知りません」

「ふーん、まぁいいけど」


アーデン・ルシス・チェラム

彼はそう名乗った。

正式名を名乗る意味を聞いてきたが、これは代々伝えられてきた儀式のようなものだ。
誰かに歌を捧げる時は正式名を述べる。そう教えられていた。

「では、アーデン・ルシス・チェラム。あなたに祝福の歌を捧げます」

そう言って一呼吸置くと、彼女は静かに歌い始めた。

彼女の歌にはどんな意味が込められているのか。

異国の言葉で奏でるその歌の内容は理解できないが、不思議と病に侵された身体が癒されるような感覚に陥った。






静かに流れる滝の音と共に、心地よい彼女の声が響き渡る。

暫く2人の間で、穏やかな時間が流れていった。


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