第2章 中編
「ところで、さっきの歌は何?」
アーデンは彼女へと視線を向けると、彼女もまた視線を合わせてきた。
どこまでも自由に会話を続ける男に、彼女の表情は険しいものになる。
そんな彼女に声を殺して笑うと、静かに答えを待っていた。
「あぁ、そういえばあなたは何回か私の村に来て救ってくれましたねぇ」
だが、返ってきた答えは的外れなものだった。
どうやら仕返しのつもりなのか、話題を捻じ曲げた彼女。
そんな彼女にアーデンは耐え切れず、笑い声を漏らした。
「…えっ、今笑うところですか?」
「…あぁ、うん。君って面白いね」
「どこをどうとって面白いのか理解出来かねますが」
彼女はそう言うとアーデンから視線を外した。
過去に憧れていた彼は、中々性格に難がありそうだ。
勝手に憧れておいてなんだが、夢を壊された気分だった。
「で、歌の事教えてくれないの?」
何気に逸らした話題を、彼は再び切り出してきた。
こんなことなら迂闊に歌うんじゃなかった。
人前で歌うなと昔から厳しく言いつけられていたが、命が尽きると分かっていたので最後くらいいいだろうと思っていた。
「……私は、神凪の成れの果てなんです」
どうせ死ぬ命を救われたのだ。
ならば、もう隠す必要はない。
これからの人生は、ないはずのものだったのだから。
「…は?」
彼女の言葉に、暫く黙り込んでいた彼だったが、漸く言葉を発したかと思えばそれだけだった。
「あ、すいません。だいぶお年を召されているようなので聞きづらかったでしょうか。私はーーー」
「いや聞こえてるし」
彼女の言葉を遮りアーデンは思わずため息を吐く。
息を吸うかの如く出てくる辛辣な言葉はどこから湧いて出てくるのか。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
先ほど彼女は神凪の成れの果てと言った。
その意味を彼女に尋ねると、そのままの意味だと言われた。
次期国王に審判が下るように、神凪にも審判が下る。
彼女は選ばれず、その力を失ったのだ。