第2章 中編
「…立聞きですか?」
アーデンが暫くその歌を聞いていると、気づいていたのか彼女が振り返った。
「……っ」
彼女の黒く変色した皮膚にボロボロの服、無造作に伸びた髪。
見るに耐えられない姿だったが、彼女が昔出会った少女だと一発で気づいた。
昔の面影などほとんどなかったが、先ほどの歌と霞んだ金髪に金色の瞳を見て確信した。
異国の言葉で奏でるその歌は、そう忘れることはないだろう。
「えっ、ちょ、何ですか?黙って近づかれると怖いんですが」
無言で足を進め、彼女の黒く変色した皮膚に視線を向ける。
そしてそのまま手をかざすと、その病を吸い取った。
もう駄目だと思っていた。
疲弊していく身体に、進んでいく浸食。
だから最後は、お気に入りのあの場所で死のうと思ったのだ。
「……ありがとうございます?」
彼女はアーデンの正体に気づいていた。
まさか本当に助けられるとは思っていなかった彼女は、戸惑いを隠せなかった。
「オレのこと、覚えてない?」
戸惑う彼女を見て、思わずそう尋ねてしまった。
出会ったのが小さい頃なので覚えていなくても仕方ないかもしれないが。
「あ、知ってますよ。次期国王候補のアーデン様ですよね?各地で寄生虫に侵された人々を救っている」
どうやらアーデンのことは知っていたが、それは彼が望む回答ではなかった。
やはり覚えてないか。
アーデンはそっとため息を吐くと、彼女の隣に立ち美しい滝へと視線を向けた。
「聞いておいて無視ですか?」
「あぁ、ごめんごめん。どうやら人違いだったみたい」
「…は?…えっと、何が?」
「……ところで君、なんでここにいるの?」
「…なるほど私の言葉をガン無視とは、どうやらあなたは噂に聞くほどいい人ではなさそうだ。因みにここは私のお気に入りの場所なので、ここにいるのは私の自由です」
「へぇ、どんな噂なの?」
「聖者、救世主、次期国王、慈悲深い男」
「さほど合ってるじゃん」
「慈悲深い男は人の話をスルーしたりしないのですが」
相手があのアーデンだというのに、臆することなく対話する彼女。
そんな彼女に、少しだけ興味が湧いてきた。