第2章 中編
そして数年が経った。
結局あの村に神凪はいなかった。
弟自ら出向いて確認したのだから、間違いないのだろう。
勝手に保護対象として、勝手に切り捨てる。
なんとも反吐の出る行動だったが、正直オレには関係のないことだった。
自由気ままに放浪を続ける。それが出来れば、それ以上望むものはなかった。
愛馬に乗り、今日も気ままに旅を続ける。
家臣も付き人も誰もいない。
この力のおかげで、寝床も食事も困らなかった。
気まぐれに立ち寄った場所で慈善活動をし、そこで一晩過ごすと、また旅を続ける。
すでにアーデンの名は世界中に広がり、完全な有名人扱いだ。
そしてそれを、同じ国王候補である弟は面白く思っていないだろう。
ここ最近、ならず者に命を狙われる機会が増えつつあった。
犯人は分かっていたし、アーデンより強い者は早々いないので好きにさせているが、正直煩わしかった。
次期国王に興味もなければ、正直人を助けようなどという善意もあまりなかった。
だけど、人を救う力を得た以上、病に侵された人を黙って見過ごすほど、非道でもなかった。
それもこれも、この力を得る前のまだ若い時、1人の少女に助けられたことがきっかけなのだろう。
アーデンもまた、寄生虫に侵されていた時期があった。
王族が病にかかるなど、絶対にあってはならない。
だから彼は分厚いコートで身を隠し、各地を巡察するという名目で王都を離れていた。
そうしたところで何も解決しないが、黙って殺される気などなかった。
アーデンは日に日に弱っていく身体に舌打ちをし、野宿の準備も碌にせずにその場に倒れるように座り込む。
日もすっかり暮れているので、火を焚かないと寒いし、獣が寄ってくる。
そう分かっていても、もう動くことが出来なかった。
王族出身が、こんな荒野で野垂れ死にとは。
「…まぁ、他者から殺されるよりはいいか」
アーデンはそう苦笑すると、その瞳を閉じた。
~~~♪
静かな森に響き渡る幼い歌声。
朦朧とする意識の中で、その歌だけははっきりと聞こえた。