第2章 中編
気が付けば、まるで眠っているかのように目を閉じているアーデンが視界に入った。
いや、これは…
ユーリがそっと顔を覗き込むと、静かな寝息が聞こえてくる。
眠ることが出来ないと言っていた彼が、何故このような状態に?
最初は寝てるフリかと思ったが、ユーリが傍を離れても、彼がその場から動くことはなかった。
声を掛けるも反応がない。
相手があのアーデンなので油断は出来ないが、ユーリはこのチャンスに掛けることにした。
冗談で歌った子守歌とは呼べない歌。
それが一体彼にどんな影響を及ぼしたのかは分からない。
だけどなんとなく、彼にとって悪いものではない気がした。
ユーリはアーデンの部屋を後にすると、素早く出発の準備を行い通りかかった兵士にアーデンが体調を崩して眠っていることを伝える。
アーデンが体調を崩すという事にかなり驚いていたが、上層部に報告し気にかけてくれるよう手配をしてもらった。
そしてユーリは、誰にも気づかれないよう帝都を後にしたのだ。
ニフルハイム帝国からルシス王国はそれなりに離れている。
列車が利用できる場所は利用し、後は夜道を避けてヒッチハイクでもしないと辿り着くまでにかなりの時間が要する。
……彼が何時起きるか分からないですが、これはバレますね
ユーリが列車に揺られながら、ぼんやりと景色を見ていた。
眠り続けたままならそれはそれで問題だが、起きた時にユーリが帝都に戻ってないほうが色々と面倒だった。
アーデンが怒ったところなど一度も見たことないが、今回は一歩間違えれば国際問題に発達する。
恐らくアーデンの過去は、ルシスにとって機密事項の可能性が高い。
そんな重要資料が簡単に見れるとは思えないが、もうここまで来たのだから後には引き返せない。
……私らしくないですね
誰かの為にここまで行動したことなど、今まで一度もなかった。
下手をすれば殺されるかもしれないことを彼女は行おうとしている。
そんな自分自身でも不可解な行動に、戸惑いを隠せずにいた。