第2章 中編
ユーリが目を覚まして、すっかり日も暮れてしまった。
何時の間にか隣に居座っているアーデンはユーリの髪に触れたり等好きにしている。
適当に会話を交わしながら、ユーリはどうしたものかと悩んでいた。
アーデンの隙を見て峰内でも狙うか?いや、絶対無理だ。
そもそも眠らないのに意識を失うって概念はあるのだろうか。
だめだ、考えれば考える程無理ゲーな気がしてきた。
「アーデン。私に構わず休んでいいですよ」
「別にオレはその必要ないんだけど」
「それは眠れないからですか?それとも疲れるって概念がないんですか?」
「…そうだね。オレは人じゃないから」
どこか皮肉気味にそう言うと、漸くユーリから手を離しソファーにもたれかかった。
「…あ、いいこと思いつきました。子守歌でも歌ってあげましょう」
「…は?」
ユーリは半ば投げやりな気持ちになり、アーデンの肩を掴むとその身体を自身へと引き倒した。
「…随分と積極的な行動で嬉しいけど、急に何で?」
所謂膝枕の状態になったアーデンは一瞬怪訝な表情を浮かべたが、直ぐに人の悪い笑みを浮かべてユーリを見上げた。
「眠れないあなたに私の素敵な歌声を差し上げましょう」
「それは楽しみだけど、自分でハードル上げて辛くない?」
「いえ全く」
声を殺して笑っている彼に、ユーリも不敵な笑みを浮かべる。
歌なんて生まれてから歌った記憶がない。
上手いか下手か聞かれれば、間違いなく下手だろう。
そもそも子守歌など知らない。
ユーリが知っている歌は、ただ1つだけだった。
「…ティ アデ ベェネ ディク ティオン」
突然異国の言葉を発したユーリに、アーデンは目を見張った。
「ルクス エ テネ ブラエ ティ ドゥク トゥ」
不思議な音程で流れる歌声に、アーデンは身体に違和感を感じる。
ーーーあれ、この歌どこかで…
「レク エィス フィ ファチェ」
ぼやけていく思考回路に、遠い記憶が蘇る。
ーーーまさか、これは…
アーデンは咄嗟に歌を止めさせようとユーリに手を伸ばすが、その手が届くことはなかった。
伸ばされた手がソファーに落ちる。
それでも彼女は歌い続けていた。