第1章 前編
森を抜け、アーデンの車が止めてある場所へと向かう。
その間今日一日振り回されたことで、ユーリは悶々と考え込んでいた。
何とかして仕返しをしたいが、いい方法が思いつかない。
ユーリはもうどうにでもなれと思い、繋がれている手とは反対の手に剣を掛けた。
「……っ」
ユーリはアーデンの隙をついて、最短距離で攻撃の届く場所へと短剣を付きだした。
だがそれもあっさりと彼の手で止められる。
こうなることは分かっていたので、彼女は大人しく剣を下ろした。
「…はぁ、オレの恋人は凶暴だなぁ」
「嫌なら返品してくれて構わないですよ」
ユーリは手元の剣を弄びながら、そう伝える。
すると、不意に周りの空気が変わった気がした。
「ユーリはさぁ、遠慮なく攻撃してくるけど、それってオレが死なないからだよね?」
「…えぇ、まぁ、そうですね」
「オレは確かに死なないけど、痛みは感じるって言ったらどうするの?」
「…え」
アーデンの言葉に、ユーリは思わず視線を向ける。
交わった視線から、彼の感情は読めない。
ただ静かにユーリを見ているだけで、それが逆に怖かった。
「……ごめんなさい」
ユーリは視線を逸らすと、静かにそう呟く。
もし彼が痛みを感じるのなら、確かに私の行動は軽率だった。
だから素直に謝罪をしたのだが、そういえば最初に攻撃をしろと言ってきたのは向こうだったと思い出す。
「なんて、冗談だけどね」
更に追い打ちを掛けるように伝えられた言葉。
ユーリは本格的に彼が何を言いたいのか、何を考えているのか分からなくなり、唖然と彼を見上げる。
すると、彼の背後で僅かに何かが光った気がした。
「…っ!」
そこから先はほぼ無意識だった。
離れた場所から放たれた攻撃。
ユーリは咄嗟に彼を押しのけて前に出た。
瞬時に走った痛みに、僅かに顔を歪める。
この攻撃は魔法なのだろうか。
確かここは、ルシスからも近かったはず。
ユーリは利き腕から血が流れているのを確認すると、仕方なく反対の手で剣を掴む。
「何やってるの?」
ユーリが更に一歩前に出ようとした時、底冷えするような声が響き渡った。