第1章 前編
次第に日が暮れつつある中で、金属音が響き渡る。
傍から見たらとても恋人同士には見えないだろう。
ユーリはアーデンの攻撃を受けながら、内心舌打ちをしていた。
やはり彼は強かった。
恐らく今も、本気を出してない。
ユーリを軽くあしらいながら楽しんでいるようだ。
「……?」
剣を交えてどれくらいったっただろうか。
いい加減この無駄な争いを止めようと剣を止めた時、ふと何かの気配を感じた。
アーデンも同じものを感じたようで、視線を辺りに巡らせる。
「…あぁ、そういえばもうこんな時間か」
日は既に落ちていた。
という事は、シガイが現れる時間帯だ。
ユーリ達を囲むように数体のシガイが姿を現す。
ユーリは思わず息を呑んだ。
実はシガイを生で見るのは初めてなのだ。
例え兵士と言えど、勝てないと分かってて夜に荒野を出歩かない。
そして戦争中もわざわざ夜に帝都から出るような指示を出されることなかった。
目の前の巨大なソレに視線を奪われる。
とてもじゃないが勝てる気がしなかった。
そんなユーリの様子を一瞬見たアーデンは、襲い掛かってきたシガイをいとも簡単に切り捨てた。
「……っ」
次々とシガイを切り捨てていく彼の動きには一切の無駄がない。
気が付けば、あっという間にシガイ達は消え失せていた。
「……確か、自分で作ったと言っていた記憶があるのですが、いいのですか?」
剣に着いた黒い液体を振り払い、何事もなかったようにこちらに来るアーデンに思わず言った言葉がそれだった。
アーデンは一瞬何のことを言っているのか分からなかったが、彼女が言わんとすることがすぐに分かり笑っていた。
「まさか君からそんな感想が聞けるとは思ってなかったよ」
「へぇ、じゃぁどんな言葉を期待してたんですか」
「うーん……守ってくれてありがとう、かっこよかったですって?」
「それを私が言うとでも?」
「うん、ないね」
呆れ顔のユーリにアーデンは笑みを深めると、彼女の隣に立った。
「さて、今度こそ帰ろうか」
ユーリの手を取り何事もなかったように歩き始めるアーデンに、これ以上突っ込む気が失せてしまった。
本当に、どこまでもマイペースな男だ。