第1章 前編
偉い人とは思っていたが、まさかこの国のNo.2の部屋とは思わなかった。
話したことなど一度もないが、流石に顔は知っている。
誰だ運がいいと言った奴は。
ユーリはそっと溜息を吐くと、この状況を説明しようとした。
流石にわざとではないと説明し謝罪すれば、許してくれるだろうと思ったのだ。
「もしかして、ソレ、見たの?」
だが、私が口を開くよりも先に放たれた言葉。
ポーカーフェイスが得意な私の表情が、僅かに引きつった。
気配は感じなかったが、もしかして見られていたのか?
…いや、カマをかけられただけかもしれない。
最初こそ鋭い視線を向けていた彼だが、今は胡散臭い笑みを浮かべている。
ユーリは気づかれないようにそっと息を吐き出すと、今後の流れを変更することにした。
「すいません、実は私、あなたのファンなんです」
「…は?」
静かに放たれたその言葉。相手はあの宰相だ、普通にやり取りしても敵わないだろう。
笑顔を貼り付けていた彼の表情が、少しだけ変わった。
「戦いに巻き込まれてこの部屋まで吹き飛ばされました。そしてここが、もしかしたらアーデン宰相の部屋ではないかと思い勝手に物色していました。ソレ、が何を意味するか分かりませんが、こんな状況でストーカーよろしく部屋をウロウロしてしまい申し訳ありません。しながい一般兵の叶わない恋だと憐れに思い、許してもらえませんか?」
よくもまぁ、ここまでペラペラと口が回るものだと、自分自身でも感心していた。
だが、私は先程見てしまった。
この国の秘密、いや、彼の秘密を。
生きてここから逃れらる可能性は低そうだが、とりあえずやれるだけのことはやるつもりだった。