第1章 前編
荒野を抜け森の中に入ると、早速魔物と出くわした。
ユーリは顔色1つ変えることなく切り捨てていく。
そんな彼女の姿を見て、アーデンはふと自室での出来事を思い出した。
彼女に剣を渡し、自分を殺すように言ったあの日である。
思えば、彼女の剣裁きは確かに綺麗だった。
彼女が強いのはあながち間違いではないのだろう。
「アーデン。用事はまだ終わらないのですか?」
二人で野外に出てから暫く経つ。
アーデンは何をするわけでもなく、ユーリの後ろから付いてくるだけだった。
「そうだねぇ。ユーリの鮮やかな剣裁きも見れたし、そろそろ帰ろっか」
「は?」
アーデンの言葉に思わず歩みを止めて振り返る。
そこには口元に笑みを浮かべて、興味深げにユーリを見ているアーデン。
「……野外での視察は?」
「終わったよ」
「一体何時?」
「んー?ついさっき?」
「……因みに視察の対象は」
「君」
「……」
二人の間で沈黙が落ちる。
どうやらアーデンは、ただユーリと出かけたかったようだ。
そして、いつも街中だからたまには野外へと。
冗談で護衛を頼めば本気でやってのけるので、暫くその姿を見て楽しんでいたのだ。
「…あっ、こんなところにまだ敵が」
「はいはい、剣をこっちに向けない」
ユーリの剣先がアーデンの喉元を狙う。
死なないと分かっててやってくるのだから、ただの腹いせなのだろう。
当然アーデンも、2回目は大人しく斬られてやる筋合はない。
ユーリの攻撃を交わしながら剣を抜くと、彼女と対峙する。
アーデンの行動に少し目を見張った彼女だが、上等だとばかりに攻撃を仕掛けた。