第1章 前編
アーデンはきっと私の反応なんてお見通しなのだろう。
僅かに上がった頬の体温を隠すようにユーリは僅かに俯くと、アーデンの右手をそっと掴んだ。
手袋で隠された手は外から分かるほどに冷たかった。
ユーリはその手袋を外すと、両手で彼の手を包み込んだ。
「相変わらず冷たいんですね。いくら心まで冷えてるからと言ってもここまで冷たい人はいないですよ」
さするように彼の手を触れているユーリ。
そんなユーリの行動に、アーデンは僅かに目を見張った。
生身に触れられるのは、今まであまりなかったことだ。
どいつも、この身体の冷たさを知ると驚き離れていく。
だけど彼女は離れるどころか、まるで体温を分け与えるように優しく包み込んでくる。
……ヤメロ
咄嗟にこれ以上踏み込むべきではないと思い振り払おうとしたが、寸前のところで思いとどまる。
ここでそんなことをすれば、この関係が台無しになってしまう。
せっかく面白そうなものを見つけんだ。
だからそれは避けたかった。
ユーリの失礼な言葉に、珍しく黙り込んでいるアーデン。
ユーリ自身も、らしくない行動をしているのは分かっている。
アーデンの方が何枚も上手なのは覆らない事実だ。
だから今日は少しだけ、私らしくないことをしようとしたのだ。
「ありがとう、アーデン。大事にしますね」
嫌味も何もない、綺麗な言葉と笑顔。
案の序、目の前の男が驚いていた。
私らしくないといっても、別に嘘を言っているわけではない。
買って貰った服も、連れて行ってもらったバーも、この景色も、どれも感謝はしていた。
ただそれを素直に口にしていなかっただけだった。
二人の間で静かに時が流れてくる。
何時もとは違う空気を、この時初めて二人は感じていたのだ。