第1章 前編
日も暮れて、そろそろ戻ろうかとなった時、最後に連れていかれた場所は、夜景が綺麗に見える高台だった。
「意外とロマンチストなんですね」
帝都の夜景とはまた違う景色に、珍しくユーリは綺麗だと思った。
「惚れ直した?」
「…あぁ、残念。その一言がなかったら惚れ直してたかもしれないのに」
「ははっ、それは残念」
ユーリの言葉にアーデンは笑みを浮かべると、そっと彼女の首元に触れた。
冷えた彼の手の感触に思わず身を捩った彼女だが、大人しくするよう言われる。
「はい、もう動いていいよ」
そういって彼の手が離れると、首元にはキラキラと光るネックレスが付いていた。
「…え…っと…これは?」
困惑した表情の彼女に、アーデンは再び笑みを浮かべると愛する恋人へのプレゼントだよと何とも恥かしげもなく言ってきた。
「……」
ユーリはリアクションに困り、思わず目の前の男を凝視する。
その表情は色々なものが映っていた。
恥ずかしいのか、疑っているのか、内心何か文句を言っているのか。
「…あぁ、どうせならこんなロマンチックな状況で告白されたかったですね」
照れ隠しでどんな悪態を付いてくるかと待っていたアーデンは彼女の言葉に笑みを深めた。
「言っておくけど、先に告白してきたのはそっちだからね?しかも血まみれで。あれは軽くホラーだったよ」
「シガイを研究している人がホラーなんて、何言ってるんですか。私の記念すべき初恋人と結ばれる瞬間が、あんな意味の分からない状況なんて、全く、乙女心を分かってないですね」
「いやだから、先に吹っ掛けてきたのはそっちだから。てか、中身によらずロマンチック思考なんだ?」
「失礼な言葉が聞こえてきましたがこの祭流しましょう」
「今までも結構オレの言葉流してるよね?」
彼女の反応は、予想通りのもので可愛げのないものだった。
だけど、それでいい。
そんな彼女だからこそ、遊びがいがあるのだ。