第1章 前編
その後は適当に街中を散策し、頃合いを見て彼の行きつけのバーに連れていかれた。
庶民派と言っていたユーリを少しは気遣ってくれたのか、そこまで堅苦しさのない場所だった。
とは言っても、庶民の私が行ける店ではないが。
「そういえば、ユーリって未成年なの?」
渡されたメニューを見ながら、不意にアーデンが尋ねてきた。
「この場だと、未成年は不味いですね。という事で私は成人しています」
そう言って飲みたいカクテルを指さす彼女。
「いやいや冗談言ってないで、まさか本気で未成年なの?」
「宰相でもあろうお方が、恋人の情報の1つや2つ知らないんですか?」
「知らないから聞いてるんでしょ。現に軍に記録されていた個人データには名前と住所しか乗ってなかったし」
「人の個人情報を勝手に見ないでください」
何となく察していたが、本当に人の情報を見ていたとは。
しかしユーリが帝国に提示した情報などほぼないに等しかった。
今更だが、よくもまぁこんな身元も分からない人物を雇ったものだ。
恐らく捨て駒扱いなのだろうが、それで何か問題が起きたらどうするのだろうか。
「…まぁいっか。今更未成年と言われても困るし」
「宰相なら別にそのくらい気にしないでしょう?」
運ばれたカクテルで乾杯すると一口だけそれを口に運ぶ。
お酒は過去に何回か飲んだことあったが、あまりおいしいとは思わなかった。
だけどこの店のものは、質が良いだけあって美味しく感じられた。
「いやいやオレのこと何だと思ってるの?」
「未成年に手を出す怪しいおじさん」
ユーリがそう口にすると、目の前の男は笑っていたが目が笑っていなかった。
「………まぁ、正直に話すと自分でも分からないんですよ」
そう言いながら料理を口に運ぶユーリ。
アーデンから流れてくる不穏な空気に、一瞬で身の危険を感じた彼女は正直に自分の素性について話していった。