第1章 前編
アーデンにエスコートされるまま街中を歩いて行く。
首都なだけあって、煌びやかな店が並んでいるが、そんなものはユーリの目には入ってこなかった。
「…あれ?随分と大人しいけどどうしたの?」
漸くユーリの違和感に気づいたのか、最初から分かっていたのか知らないが、顔を覗き込んでくる彼。
「…はぁ」
「え、なんでため息?」
「違います。これは深呼吸です」
漸く調子を取り戻し始めた彼女。慣れない恰好に場所、そして彼の態度に戸惑いはまだ感じるが、このまま彼のペースに持っていかれるのは何となく癇に障った。
緊張が解けていく感じに、今度はバレないように息を吐き出す。
「庶民派な私をいきなりあんな場所に放り込まないでください。流石にびっくりしましたよ」
「…いや、最初にびっくりしたのはオレなんだけど?」
「え、何をですか?」
意味が分からないと言った彼女の表情に、アーデンはワザとらしくため息を吐きだす。
さっき人のため息に文句言っておきながら何なんだと思っていると、今日ユーリが着ていた服に問題があったようだ。
たしかに今日はデートだと、前日に言っていた気がしないでもない。
だがしかし、戦場で泥と血に塗れている私が、洒落た服を持っているとでも思っているのか?
「一応今日着てきたものは、一番マシなのを選んできたのですが」
「え、あれが?」
帰ってきた即答に、ユーリは軽くアーデンを睨む。
あぁそうさ。言いたいことは分かる。
だがな、一応気にして選んできたんだぞ?それを一蹴しやがって。
しかも私の服、あの店に置いて来たけど処分されるパターンだよね?
くそ、勝手に人の服を。
「あぁ、私の一番のお気に入りの服がこうも簡単に処分されていくとは。私の恋人は中々に非道な人のようだ。地位や身分、金まで手に入れると何か大切なものでも失うのでしょうか。あ、でも一応お礼は言います。庶民な私では到底買えない物を頂きましたので、ありがとうございます」
「…ほんと可愛げがないねぇ」
彼女の辛辣な言葉にも慣れたのか特に反応を示さないアーデン。
きっと、ユーリのこのリアクションは予想していたのだろう。
なんとなく腑に落ちないまま、再びエスコートされるユーリだったが、これ以上はどうしようもなかった。