第1章 前編
「…あぁ、自由が欲しいな」
「…は?」
どこかぼんやりとそう呟いた彼の表情を見たユーリは、思わず言葉に詰まった。
一緒に過ごすようになって、ごく稀に見せる何ともいえないその表情。
ユーリは彼が不死身になった理由も、シガイを研究している理由も、ルシスを恨んでいる理由も知らない。
そう、彼のことを何も知らないのだ。
だが、それを素直に聞いていいものか判断に迷ってしまう。
言われなくても、彼が抱えているものが計り知れないものだと分かる。
だから安易に足を突っ込んでいいか分からないのだ。
「あ、やっぱりルシスが滅ぶのが一番いいな」
「…それは本気ですか?」
「本気本気」
「それは…相当な恨みを持っているんですね」
ユーリのその言葉に、アーデンは笑みを深めただけだった。
…あぁ、やっぱり詳しくは教えてくれないか。
ユーリはそっとため息を吐くと、再び流れる景色へと視線を戻した。
元々無理に聞こうとは思わないので、彼が話したくないならそれでいい。
もし、話したくなったらこちらから聞かなくても勝手に喋ってくるだろう。
アーデンという男は、そういう男だ。