第1章 前編
帝国の宰相と恋仲になるという珍事件を得て、1週間が経った。
その間、彼が忙しいのは本当だったようで、2人で会うことはなかった。
だからこのままフェードアウトを期待していたのだが、その期待も虚しく宰相から呼ばれていると、同僚に伝えられた。
「…補佐、ですか?」
伝言の最後に遅かったら後悔するよという脅しが入っていたので、私は重い足取りで彼の部屋へと向かった。
そして入るや否や伝えられた言葉。
どうやら彼は、私を宰相お付きの補佐として働かせたいようである。
「因みに拒否権は?」
「あると思ってるの?」
「…ないですね」
ユーリは相変わらず強引さに溜息を吐くと、ソファーにもたれかかった。
一般兵がいきなり宰相の補佐なんて怪しすぎる。
2人が恋仲だと知る人物は、今のところいない。
となると考えられるのは、私が宰相を拐かしたと、非常に不本意なレッテルが貼られる可能性があるという事だ。
あぁ、明日から同期から向けられる視線が、好奇なものへ変わるのが目に見えている。
「そんなに嫌がるなんて、流石に傷つくなぁ」
「一般兵がいきなり補佐に昇格なんて、怪しすぎます」
「あぁ、それ心配してるの?それならこの関係公表しようか?」
「自ら地雷を踏んでいくスタイルですか?やめて下さい」
全くもって、どこまで本気で言っているのか分からない。
私よりも宰相である彼の方がダメージが大きそうなのに、一体何を考えているのか。
宰相である彼がただの一般兵に手を出したなど、何を言われるか分かったものではない。
「とりあえず補佐のマニュアルでもあるなら用意してください」
「そんなのあるわけないでしょ。その都度指示するから大丈夫だよ」
大丈夫って一体何が大丈夫なのだろうか。
自慢じゃないが、私は戦闘には向いてるかもしれないが秘書的なものは向いてないと思うぞ。