第1章 前編
「いいですよ」
「え?」
「仕方ないから付き合ってあげます」
「何で上からなの?」
「頼んでいるのがそっちからなので」
正直、こんな展開は予想してなかった。
この男の言葉を間に受けてはいけないと思ったが、先ほどの言葉は否定してはいけないような気がした。
否定とは、私が受け入れる云々ではなく、彼が本気でそう言ってることにたいしてだ。
彼の過去に何があったかなんて、私は知らない。
ただ、触れてはいけない部分が少しだけ見えたような気がしたのだ。
てか私が逃げて、情報をバラしたらどうするのか?
逃げれないとでも思ってるのか?もしくは裏切らないとでも?
…いや、私が騒いだところで信憑性も何もないか。
というかシガイ云々は本当っぽいが、ルシス滅亡は本気で言ってるのか分からない。
なんてことだ、結局私が不利ではないか。
ユーリはそっと溜息を吐いた。
まぁいい、とりあえず、私の中での彼の印象が最初にくらべて少しだけ変わった。
だから、彼の茶番劇にもう少しだけ付き合うことにしたのだ。
「良かったですね、若い子と晴れて恋人同士になれて」
「それ、自分で言ってて恥ずかしくない?」
「いえ全く」
「言っておくけど、オレそんなに歳をとってないからね?」
「そうなんですか?私の視力はいい方なのですが」
ユーリの失礼極まりないその言葉も、最早男は気にしなくなったのか、今まで向けていた笑みとはまた少し違う笑みを浮かべて、そのままユーリを抱き寄せた。
「じゃぁこれからよろしく。先に言っておくけど、オレ独占欲も執着心も強いと思うから?」
「知りたくもない情報をありがとうございます」
ユーリの言葉に男は笑みを深めると、再び彼女の唇にキスを落とした。
少しだけ身体を強張らせたユーリだが、大人しく彼に身を預ける。
2回目の口づけも相変わらず冷たいものだったが、ほんの少しだけ心が暖まったような感じがした。