第1章 前編
ユーリの言葉に、驚いたように黙り込んだ彼。
そして何かを考え込んでいる仕草をしていた。
なんだろう、何かデジャヴを感じる。
「うん、やっぱり君のこと気に入ったよ。だからオレと付き合おうか?」
「断る」
「残念、君に拒否権はないんだよねぇ」
「…はぁ」
帝国の№2に対して随分な態度をとっているが、もう何もかも今更である。
というか、何故そこに拘る。
私と恋人同士になって誰が得をするのか。
どうせ知るべきじゃないことを知ってしまったんだ。
殺さないなら、恋人なんて回りくどいやり方ではなく、もっと効率的な管理方法があるだろうに。
…まぁ、知るべきじゃなかった情報の内9割は、向こうが勝手に喋ってきたものだが。
なんてことだ、寧ろ私は被害者ではないか。
何が悲しくてそれを餌にこの男と恋人にならないといけないのか。
年齢差的に事案が発生してもおかしくないだろう。
というか、別にモテないわけじゃないだろうに、全く持って何がしたいのか分からない。
「知るべき情報を知ってしまったことを抜きにして、なんで私なんですか?」
ユーリは男の真意を探った。
この男の言葉を真に受けてはいけない。
表も裏も、見えないように生きているような男なのだ。
そう簡単に信じるには、私たちはまだお互いに知らないことの方が多すぎる。
「…ユーリならさ、オレのこと受け入れてくれると思って」
少し沈黙が続いたかと思うと、静かに伝えられた言葉。
「…」
相変わらずの笑みを浮かべているが、その瞳の奥にある、僅かな悲しみに、気づいてしまった。
…あぁ、正直気づきたくなかった。
気づかなければ、軽口の1つや2つ叩けたのに。
ユーリはそっと溜息を吐いた。