第1章 前編
「そうですね。では、何で死ななかったんですか?」
このままだと埒が明かないので、仕方なく1つだけ聞くことにした。
といっても、それが一番気になるところだったのだが。
「教えてもいいけど、1つだけ条件があるな」
「じゃぁいいです」
「え?何で断ろうとしてるの?」
「寧ろ何故私がそれを受け入れると思ってるんですか」
なんだこの男は。
散々含みを持たせておきながら、今更どんな条件をつけてくるんだ。
どうせろくでもないのは分かったので、先に断ったまでだ。
「オレの事好きなんだよね?」
「まだその設定引っ張るんですか?早くその設定解除しないと、ただの痛い人になりますよ」
「オレは本気で言っていたのに。散々弄ばれた等言っておきながら、今度はオレを弄ぶんだ?」
「は?」
何言ってるんだこの人。
いや、人じゃないのか?
なるほど、人じゃないから私たちは分かりあえないのか。
彼のことは宇宙人とでも思っておこう。
そう思えば少しだけ優しくなれる気がする。
「今、かなり失礼なこと考えているよね?」
「流石は宰相。いや、宇宙から来た人。テレパシーを使うのが彼らの本業ですからね」
「…はぁ、偶に君の言ってることが分からなくなるよ」
「奇遇ですね。私なんてあなたが何を考えているのか、一つも分からないですが」
ユーリが視線を窓に向けると、朝日が昇ろうとしているのが見えた。
まったく、朝早くから私たちは何をやってるんだ。
「なに、また飛び降りたいの?」
「出来るならそうしたいです」
ユーリの視線が動いたのをどう思ったのかそう尋ねてきた彼。
ユーリは再び彼に視線を戻すと、相変わらず胡散臭い笑みを浮かべているだけだった。
「さて、私は何時になったら解放されるのでしょうか?」
「ユーリはさ、オレのこと怖くないの?」
「シカトですか。……そうですね、窓から飛び降りるよりは怖くないですよ」
自慢じゃないが私は高所恐怖症である。
寧ろ昨日よく飛び降りれたと、自分自身に拍手を送ってやりたいくらいだ。