第1章 前編
「かなり失礼なこと言ってるけど、そんなに死にたいの?」
「えぇ、先ほどからそう言っていたと思いますが」
言い方によっては私が自殺願望でも持ってそうな口ぶりだが、もう訂正するのは面倒だった。
「死んだら、あなたに会いに行きますよ」
「へぇ、何しに?」
「もちろん殺しに」
ユーリのその言葉に肩を震わせて笑う彼。
恐らく馬鹿にしているのだろうが、なんだろう、少しだけ違和感を覚えた。
「オレを殺せるんだ?」
「そうですねぇ、亡霊は生きている人間より強そうなので」
「…ふぅん」
男が持つ空気が、突然ガラリと変わった。
ユーリは何なんだと思っていると、突然手を掴まれた。
「じゃぁ、試してみてよ」
「…え?」
そう言って有無を言わさず、引きずられていく。
ユーリは意味が分からないと、掴まれた手を外そうとするがびくともしない。
唇もそうだったが、恐ろしく冷たい手。
ユーリはこの時、再び感じた違和感と胸騒ぎに嫌な汗が流れ落ちる感じがした。
そして程なくして連れて来られた、アーデンの部屋。
何時の間にか綺麗に片づけられたそこは、部下にでもさせたのだろうか。
ユーリは部屋の中央に立ち尽くし、現実逃避をしていた。
「ほら」
そして部屋に押し込まれるや否や投げ渡された剣。
美しく光る刃には手入れが行き届いており、切れ味が非常に良さそうだった。
「アーデン宰相、疲れているんですか?」
ユーリは渡された剣とアーデンを交互に見て、そう言った。
最早彼の頭の中は、人知を超えたものだという事は分かった。
彼の行動が何一つ理解できない。
自殺願望があるとは思えないが、本当に何がしたいんだ。
「そうだね。ユーリの相手をしていたら疲れたよ」
「それは申し訳ありません」
「だから責任取って?」
心の籠ってない謝罪を華麗にスルーされ、あまり聞きたくなかった言葉を言われた。
「あなたを殺して、私に何の得が?」
「少なくともここから逃げれるんじゃない?」
「…あぁ、なるほど」
男のその言葉に、ユーリは納得する……振りをした。
全てはこの茶番劇をさっさと終わらせるためだった。