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闇夜の雫【FF15】

第1章 前編



アーデンの手がユーリの顔に触れた瞬間、次に来るであろう衝撃に備え、そっと息を詰めた。


「…っ!?」


だけど、来るはずの衝撃は、何とも軽いものだった。

唇に触れた、冷たい感触。
それは人が持つには、あまりにも冷たすぎるものだった。

一瞬何が起きたのか分からず瞳を開けば、目の前に広がるあの男の顔。

恐ろしい程整った顔を持つ彼と目が合った瞬間、ユーリの脳内は今の状況を受け入れることを拒否した。

「ちょっと、何してくれるんですか?」

ユーリは男を押しのけると、僅かに上がった体温を隠すように彼を睨みつけた。

何がどうなってキスをする、という行動に結びついたんだ。
昨日からそうだが、本気でこの男が何を考えているか分からなくなってきた。


「あれ?もしかして初めてだった?だったらごめんねぇ」

「違うそうじゃない。私が期待していた行動と180度違うどころか、異次元を超えるようなことしないでください」

「え?初めてじゃないの?」

「そこに食いつくんですか。人を疲れさせることに長けてる私でも、流石に疲れてきました」

「なんだ、そこは自覚してたんだ」

「いえ、これも知人から言われました」

ユーリはもう勝手にしてくれとばかりに肩を竦ませた。
それを最後に、二人の間で暫し重い沈黙が流れる。






「で、ユーリはどうしたいの?」

ユーリは意地でもこの沈黙を破る気がなかったので、会話を切り出すのはアーデンになった。

だが再度問われた、昨日と同じ内容にユーリはため息を吐く。
選択肢などないはずなのに委ねてくるのは、もしかしなくてもおちょくって遊んでいるのだろう。

死に怯え、逃げ惑う姿でも見たいのだろうか。

「その性格の悪さは、イオスを代表して言えますね」

「何それ?規模でかくない?」

「そのくらい胸を張っていいと思いますよ」

ユーリはそう言うと、先ほど触れた唇に手をそっと這わせた。
まるで死人のような冷たさを持った彼に、不思議と恐怖心は湧かなかった。
寧ろ、心が冷たいと唇まで冷たくなるのかと、失礼極まりないことを考えていた。


キスは、あれが初めてだった。





だけどあれをキスと呼ぶには、余りにも情緒に欠けるものだった。

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