第1章 前編
ユーリはこの生殺しの状態に、うんざりしていた。
まさか昨日の茶番劇が今日も続くとは思っていなかった。
こうなるなら、傷の手当と荷物の存在は捨てて、さっさと逃げればよかった。
せっかく逃げれる希望が見えたのに、やっぱり私は死ぬしか道がないのだろうか。
それなら、昨日あそこで落ちた瞬間に死んでほしかった。
ユーリは手に巻かれた包帯にそっと触れ、ため息を吐いた。
それは自分自身の生命力の強さによる呆れのものか、強運を持ち合わせていることへの呆れなのか分からなかった。
「随分と思い詰めた表情してるけど、大丈夫?」
「…はぁ、まぁ。その元凶が今目の前にいるんで、大丈夫ではないですね」
「オレ?昨日あんなに熱烈な告白しといて、それは酷いなぁ」
「あなたこそ、それ本気で言ってるんですか」
ユーリはもう色々と面倒になってきたので、背負っていた荷物を放り投げ、両手を広げた。
「さぁ、どうぞ」
「え?何?抱擁?」
「その目は腐ってるんですか?さっさと捕まえて殺せと言ってるんです」
ユーリはジト目で目の前の男を見ると、そっとその瞳を閉じた。
死を受け入れ、震えることなく立ち続ける彼女。
そんな彼女の姿が、2000年前の自分自身と重なって見えた。