第1章 前編
次の日。
ユーリとの出会いは、意外にも早く訪れた。
わざわざアーデンが情報網を使わなくても、向こうから勝手に目の前に現れた。
いや、目の前に現れたのは向こうにとっても不本意なものなのだろう。
あからさまに歪んだ表情が、そう語っていた。
「やぁ、数時間ぶりかな?随分と突拍子のないことしてたけど、大丈夫だった?」
アーデンは笑顔を顔に張り付けて、目の前で荷物を抱えているユーリに近づく。
その大荷物、といってもそこまで大きくないが、恐らく亡命でもしようとしているのだろう。
ユーリの身体は、手当された跡がある。
自分でやったのか、他人がやったのかは分からないが、少しだけ面白くなかった。
「こんな早朝に、こんな場所でまた出会うなんて、宰相という立場は余程暇なのですね」
こんな場所と言っているが、ここはまだ帝都グラレアにある市街地。
寧ろ、まだこんな近くにいたことの方が驚きだ。
「昨日から暇人扱いしてるけど、オレそんなに暇じゃないんだよねぇ。先日の戦争で片づけないといけない書類が山のようにあってさ」
「そうですか。それならば宰相らしく、職務に専念してください」
「でもそんなことより、もっと重要な仕事が出来てさぁ。例えば、目の前で亡命しようとしている人物を捕まえるとか?ほら、国の重要機密を知っているわけだし、流石にそれを見逃したとなったら、オレの立場も危ういだろうなぁ」
間一髪開けずに返って来た言葉。
ユーリの表情は、僅かに引きつった。
「それはご愁傷様です。重要機密を持ち逃げされないよう、早く捕まえに行ったらどうですか?」
「…それ、本気で言ってる?」
二人の距離感は一定を保たれたままだ。
一人は無表情で、もう一人は笑顔を顔に張り付けている。
一瞬の隙も見せまいと、二人の睨み合いは続く。
いや、どう考えてもアーデンの方が上手だろうし、気を張ってるもユーリだけだった。
さっさと捕まえずにこの状況を楽しんでいるあの男も、期待通り性格が悪い。
それもと、もしかして戦術は皆無なのだろうか?
ありえないと思いつつ、昨日あっさり私に逃げられた辺り、間違ってなもしれない。
まぁ、あそこから飛び降りられれば、どんなに戦術に長けてようが、捕まえようがないが。