第2章 中編
アーデンは手を握り締めると、そのまま床に打ち付ける。
ユーリの身体の変化には気づいていた。
同じように染まって欲しくないと思っていたはずなのに、結局は中途半端に汚してしまった。
しかも忘れていたとはいえ、一番汚したくなかった彼女を。
アーデンは己の両手を見て、眉を潜める。
彼の身体を犯していた寄生虫はほとんど消えていた。
それが何を意味するのか、言われなくても分かる。
「…一人で何やら忙しそうですが、私はそろそろ行きますね」
アーデンが混乱で動揺していると、不意に聞こえてきた言葉。
慌てて立ち上げり彼女に手を伸ばすが、その姿は闇の粒子となり夜の街並みに消えていった。
「…くそっ!!」
アーデンはその場を翻すと、急いで彼女の後を追った。
闇の力のほとんどを失った彼は、もう姿を消して自由に動くことはできない。
心の整理がつかないまま車に乗り込み、苛立ち気味にアクセルを踏み込む。
昔も今も、ユーリは全部1人で抱え込もうとしている。
結局何時も助けられてばかりだ。
アーデンが向かう先はルシス。
ユーリがどこへ行ったのか分からないが、行くとすればそこしか思いつかなかった。
ーーーー次に目覚めた時、闇に負けてはいけませんよ
脳裏には彼女の言葉が浮かぶ。
闇に負けたわけではないが、ユーリのいない世界で生きていける自信がなかった。
結局、彼女の望まない闇の王となることで逃げてしまった。
だからある意味、闇に負けたことになるのだろう。
アーデンは舌打ちをした。
ユーリとの記憶を思い出さなければ、2度も彼女を失うことになっていた。
まだ助かったわけじゃないが、記憶が戻らなかったら彼女の好きにさせて、後を追ったりはしなかっただろう。
本当にこの世界は狂っている。
誰かを犠牲にしないと保てない星など、滅んでしまえばいいのに。