第2章 其の二
「加州の旦那がいないと緊張が増すようだな」
書机を挟んで目の前に座った薬研が桜華を見透かしたようにそう言い、的をついた薬研の言葉に桜華は頬を赤く染めた。
「かわいいな、大将は」
突然に薬研がそんなことを言うものだから桜華は更に顔を赤くする。顔が熱くなってきてしまい、思わず薬研から顔をそらした。
「だいぶ元気になったとはいえ、まだ霊力が完全じゃないだろう?」
そらせた顔を薬研が自分の方へと振り向かせ、アッと言う暇もなくその唇が塞がれる。突然の出来事に目を丸くして至近距離にある薬研の顔を見つめた桜華は、自分の置かれている状況に気付き薬研の身体を押し返した。
離れた唇に薬研の感触が残っている。
混乱した頭で自分の唇を触る桜華を見て、薬研がニヤリと笑った。
「俺の神気は気に入ったか?」
桜華は頬を膨らませて目の前にいた薬研を睨み付けると、先ほどよりもさらに顔をそらして薬研に対し憤りを見せつける。
「そこまで弱っていません。それに突然……乙女の唇を……」
「嫌だったか?」
「嫌とかそういう事ではなくて……」
桜華は知っていた。審神者の霊力が弱まってしまった時の手っ取り早い解決方法を……それは、刀剣男士つまりは刀の付喪神様から神気を分けてもらう事だ。
これは、以前加州清光を顕現した時に、霊力の使い方が分からずに無駄な力を使ってしまった際、管狐のこんのすけから教えてもらった解決方法であり、加州と自分しか知らないはずであった。
「悪いな、大将が眠っている時、俺たちは何でもいいから大将を助けたかった。そん時、加州の旦那が教えてくれたんだ」
「それって……」
「事後報告で悪いが、皆、大将に神気を送り込んだと言えば分かるか?」
薬研は涼しい顔でとんでもないことを口にしている。桜華は口をパクパクさせてまるで鯉のようだと薬研は思った。
なんとも自分が意識を飛ばしている間に、あろうことか刀剣男士全員にキスされていると知ったショックは計り知れない。
「そんな顔しなくてもいいだろう」
薬研は呆れた顔をして桜華の顔を覗き込んだ。