第2章 其の二
桜華が薬研に何か反論しようと顔を上げた時、障子窓の隙間からハラリと何かが入り込んで、まるで何かに操られているかのように桜華の手元に舞い降りる。
「何だ?」
「式札です。これに私の霊力を乗せて使役させています」
桜華から人型の紙きれを受け取った薬研は珍しそうにそれを眺めた。この紙きれが使役をすると?
「陰陽師が鬼を使ったりするでしょう?あれに似たようなものです」
新しい式札を引き出しから取り出した桜華は、そこへ何かの陣を指で記してフッと息を吹きかける。
すると先ほどまで紙切れであったものが、ポンという音と主に小さな人の形となる。
ほほ笑む桜華は、今作ったその小人を突いて遊んでいた。
「大将は、そんなこともできるんだな」
薬研と出会ってから、まだ日が浅い。薬研の事も知らないが、それは薬研たちが自分の事を知らないという事でもある。
桜華は、この本丸に来るまで一人で生活をしていた。
神域としてくくられた土地でその巫女として暮らしていた。その生活に不自由はなかったが、ある時目の前に現れた管狐の話に耳を傾けた桜華は誰も訪れることのない神域を捨て、自由を得るのと引き換えにこの本丸へとやって来たのだ。
「ここは自由なのか?」
桜華の話に薬研が問いかける。
「あそこにいるよりはよほど自由です。それに薬研様たちもいますから寂しくないです」
桜華の話では、人の入ることが許されない場所で、話し相手は動物か言葉を発することのない式札の霊しかいなかったらしい。
神域と言われたその土地では、それが当然の事で何年もその生活を強いられていた桜華には、それが普通になってしまっていたのだ。
「だから、早くたくさんの人に会いたかったんです」
だから4振り同時顕現をしたのだと言う。
加州と二人の生活も楽しかったのは事実ではあるが、管狐の話では数多くの刀剣男士がいると言う。ならば早く大勢の人と暮らしてみたいと願ったのだ。
「大将は案外欲深なのか」
「欲深ですか?」
「でも、今まで我慢した分、欲したらいいさ」
薬研は桜華の頭をポンポンと撫でると部屋を去っていった。