第2章 其の二
あんなことがあったため、少しだけ執務を休ませてもらっている桜華。自分の失態を反省し、これからは一日一振りまで、三日に一回は顕現休業日を作ることを現存の5振りに約束させられた。
そして今日は早速休業日なのである。
明日からは少しづつ任務を遂行していかなければならない。桜華は書机にあるノートパソコンを叩きながら、明日の予定を考え始めた。
無理をしたとはいえ、5振りの刀が揃った。4振り同時顕現をしたのは任務の為というよりも、こんなに広い本丸に加州と二人きりは淋しいのではないかという考えの方が強かったからである。
遊び相手の五虎退もできたし、加州の相手をしてくれる和泉守や色々な事を教えてくれる薬研、お料理の得意な歌仙と我ながら素敵な男士が揃ってくれたものだと自画自賛する。
加州はゆっくり増やせばいいと言っていたが、やはり人手が増えたのは嬉しいことである。
加州一人に色々させるには限界もあったのだから仕方がない。
「大将、いるか?」
パソコンに目を走らせながら、色々と考え込んでいた所へ薬研の声がかかった。襖扉の向こうから自分を呼んでいる。桜華がどうぞと返事をすると、お盆の上に薬を乗せた薬研が部屋に入ってきた。
「追加の薬を持ってきた。まだ休息が必要なんだから無理するなよ」
薬研はお盆を卓袱台に乗せると桜華の書机の方へ近寄る。
この本丸も基本的には純和風の作りになっているものの審神者の寝室だけは桜華の願いででベッドを導入し洋風な作りになっている。
執務室は本丸の中庭が一望できる障子窓の傍に仕事用の書机があり、部屋の真ん中には休憩用の卓袱台。書棚や箪笥なども総檜造りで統一されたものになっている。
2205年と言えど、審神者以外の刀剣男士達は昔ながらな和風作りの方が慣れ親しんでいるであろうという心遣いだ。
「ありがとうございます、薬研様」
まだ、呼び慣れないのは加州の時も同じだった。会って間もない異性の名を呼ぶのは巫女としてずっと一人で生きてきた桜華には慣れない行為なのである。