第11章 其の十一
三日月は、桜華の手を取るとその甲に唇を落とした。
ほんのり頬を染めた桜華をやや不満げに見ている加州を横目に、三日月は彼女の腰を引き抱え、自分の方へと寄せたかと思うと、そのまま口づけを送る。
目の前で起こった出来事にあんぐりと口を開けたまま動けないでいる加州は、ハッと息を吸うとすぐさま2人を引き離した。
「ちょっと、何やってんの」
何が起こったのか分からないと言った表情の桜華と慌てふためく加州の様子を見て、楽しそうに笑う三日月。
「いや、ここの霊力は心地が良い。直接貰うが上等と思ってな。よきかな、よきかな」
「よきかなとか、そういう事じゃないから」
三日月と桜華の間に割って座った加州は目の前の天下五剣のいきなりの所業に雷を落とす。
くどくどと小言を言う加州の事などもろともしない三日月は大層な刀なのだろうと桜華は瞳を輝かせた。
ひとしきり小言を言い終えた加州は、もう一度、この本丸でのルールを三日月に説明する。
三日月は、笑みを絶やさず話を聞いていたが、それが終わると「あいわかった」と分かったのか分かっていないのかいまいち分からない返答をして、席を立った。
「主と口づけをしてはならないという【るーる】は無いようだな」
油断も隙も無いじじいである。
もちろん、神気と霊力の調和を図るためにどの刀剣男士もやっている事なので、致し方ないが、顕現初日に説明する前から審神者と口づけを交わしたのは彼が初めてだ。
さすが天下五剣とでも言うべきなのだろうか……。
しかし、ただのエロじじいという可能性もなくはない。
加州は、桜華に十分気を付けるようにと釘を刺して、審神者部屋を後にしたのであった。