第11章 其の十一
三日月と加州が審神者部屋に入ってからしばらくすると、寝室の方からそろりと顔を出す桜華の姿があった。
「主、おはよう。よく休めた?」
加州がそれに気づいて立ち上がり、桜華を三日月の前へと座らせる。
「お待たせしてしまって申し訳ありません」
三日月に深々と頭を下げて詫びをいれる桜華に彼は再び驚きの表情を見せた。
その後、ニコリとほほ笑んだ三日月は、卓袱台に並んでいた茶菓子の一つを頬張ると大きく頷いて、桜華の方へと顔を向ける。
「主、俺は主に仕える刀である。刀であるが故に、主の力が必要だ。そう畏まられては居心地が悪くてかなわんが……」
三日月の手が桜華の頭をそっと撫でた。
「随分と苦労を重ねているようだ」
三日月の言葉に、桜華も加州も不思議そうな顔を向ける。
何も語ってはいないのに、何が分かると言うのだろうか。
「審神者とは、俺たちの心を励起し、人の形を作り上げる。確かに俺たちは刀の神であることは間違いないが、主の物として、主を愛している。だから、そう畏まらずに、もっと自由に息をしてよいと思うぞ」
「三日月様……」
「亀の甲より年の劫、俺はじじいだ。皆よりも長く在る分、色々と豊富なのだ。しかし、この茶菓子は初めて口にする故、美味過ぎていつまでも食べていたくなるな」
もう一つ茶菓子を取って口に入れた三日月の瞳は慈愛に満ちていて、何も伝えていないのに何故だかホッとしている審神者がそこにはいた。
「私は、審神者になって日も浅い未熟者です。ですが、この本丸で皆と共に生きていきたいと願っております。三日月様のお力もお貸いただけるのであれば、とても幸せに思います」
「むろん、俺も主を慕っていると言ったであろう」