第10章 其の十
一方、本丸の案内を頼まれた加州は、三日月を連れて歩き回っていた。
「ここが厨ね。主はキッチンって言ってる」
「きっちん?」
食事の支度をしていた燭台切と歌仙がその声に振り向き、新たな刀剣である三日月に挨拶をする。顕現されている刀剣達との挨拶も本丸周りに含まれていた。
「こっちは厠!主はトイレって言う時もある」
「といれ……主は難解な外来語を使うのか?」
「まぁ外来語と言えばそうだけど、主も一応日本人だから」
「そうか」
近代的な言葉も交えながら本丸内の案内を終え、外に出ると馬小屋や畑、裏庭も含め、鍛刀小屋と資材置き場も見て回る。
「なかなか赴きある本丸だな」
「気に入った?」
三日月が頷き、最後に鍛錬を行う稽古場へと向かった。
稽古場では鳴狐と厚がちょうど鍛錬を行っている最中で、2人とも三日月の気配に気づき模擬刀を持った手を止め振り向く。
「さっきの気配は、あなた様でしたか」
手を止めた鳴狐の肩にヒョイっと乗った狐が三日月に声を掛けると、一つ頷く。
「俺も、手合わせを願おうか」
壁に掛けてあった模擬刀を手にした三日月は、厚と場所を入れ替わり鳴狐の前に立った。
肩に乗っていた狐は加州の元まで掛け寄り、動向を見つめる。
「あれは三日月宗近殿ですな」
「よく知ってるじゃん」
「天下五剣を知らぬものなどこの本丸にはいないでしょう」
「主以外はね……」
三日月と鳴狐の手合わせを見ながら、加州が小さくため息をついて笑った。だいぶ、刀剣に詳しくなったとはいえ、刀に関しての知識がほぼ無い。
それにしても三日月の太刀捌きはまるで踊っているかのように美しく、息も乱れる様子はなかった。重そうな狩衣を纏っているからどのくらいの腕なのだろうかと思っていたが、さすがは天下五剣。
主にも見せたいと思ってしまったのも事実である。
どのくらいそうしていたのか分からないが、日が暮れ始める前にと手合わせを終了した三日月は、満足そうな笑みを浮かべて鳴狐に礼を言い、稽古場を後にした。