第10章 其の十
薬研と2人きりなった審神者部屋。押し寄せる疲労感に桜華はゆっくり目を閉じた。
「大将、少し見させてもらうぜ」
そう告げてから、着物の合わせを軽く緩め聴診器を当てる薬研。ゆっくりと拍を打つ心音に少し不安げな顔をみせる。
「あまり無理してもらっちゃ困るんだが」
「そんなに無理はしていません」
「自分では分からんだろうが……」
人差し指で心臓あたりをトントンと叩いた薬研は大きなため息をついた。
「大将は人間だ。弱るときは弱る。俺たちが折れかかるのと同じ事」
「……そんな」
「だから無理してもらっちゃ困るって言ってるんだ」
薬研は桜華の衿を元に戻しながらしっかりとした口調で言い放つ。
男士を顕現するのに無理も何もないだろうと思いながらも、自分の力不足かと思い知らされたのもまた事実。大きな刀が来てくれたことに安堵もしたが、これから更に増えるであろう刀剣男士達、もっと大きな刀、強い刀もあるかもしれない。薬研の言っていることは分からなくもない。
「ところで主、さっき三日月に力を返してもらったって言っていたが……」
「……それは~」
口ごもった桜華に薬研は間髪入れず口づけをした。
「こういうことだろ?正直、薬なんかよりも効果覿面だからな」
ニヤリと笑う薬研の顔にドキッとする間もなく再び唇を塞がれた。内側から耳に響くのは舌と舌の絡まり合う、なんとも厭らしい水音だけ。新しい酸素を求めてもそれを阻止するように激しく動く薬研の唇に翻弄されてしまう。
しかし反対に身体にはどんどん力が戻っていき、先ほどまで怠く、上げることもままならなかった腕は薬研の二の腕をしっかりと掴んでいた。
後頭部に回された薬研の腕は熱く桜華を支えている。
空いた片手が思わず胸を這おうとして、残った理性がそれを止めたのを見計らって唇が離された。
乱れた呼吸を整えている桜華をそっと胸に抱きしめた薬研。
「次こそは、続きも頼むぜ」
そう言って、最後に額にキスを送った薬研は桜華をベッドに寝かせると部屋を出ていった。
昂る自分を押さえるのに精いっぱいだと苦笑いを浮かべながら、白衣を羽織り直すのであった。