第10章 其の十
顕現部屋では、桜華が刀剣に手をかざした瞬間、尋常でない程の桜吹雪が舞い上がった。あまりの神気と風圧に身体を支えているのが精いっぱいなほどにそれは押し寄せてくる。
途中で止めてしまうわけにはいかない……桜華は自身の霊力など気にもせず力を注ぎ続けた。
そして、桜吹雪が消え去り一人の刀剣男士が顕現する。
「俺は、三日月宗近…打ち除けが多……んっ?」
三日月と名乗る男子が顕現の口上を述べる最中にもかかわらず、桜華は一歩彼に近づいたかと思うと、そのまま倒れ込むように三日月の胸に額を付けた。
「大丈夫か?」
ゆっくりと掛けられた声に、なんとか持ちこたえた意識で小さく頷く桜華。
「すみません……こんな……」
血の気の薄れていく新たな主を見て、軽く微笑んだ三日月は彼女にひとつ口づけを落とす。スッと身体に三日月の神気が入り込んだのが分かったが、それも一瞬の出来事で、彼は桜華をヒョイと抱き上げると他の男士達がいるであろう部屋の外へと向かった。
「ちと、失礼……」
不躾と思いながらも、主を落としてしまっては元も子もない、三日月は足先で襖を開きその姿を現した。
輝く藍色の狩衣を纏った男士に、外で控えていた彼らは固唾を飲んだ。そして、彼に抱えられている桜華を見て、大きく目を開く。
「主っ!!」
「此度の主は、ずいぶんと愛らしい故、少し力を使い過ぎたようだ」
三日月は、そっと彼女を長谷部に手渡す。
息はある、しかしかなり霊力を使ったようでその弱さは手に取るようであった。
「主、大丈夫ですか?長谷部がついております。しっかりなさってください」
「大丈夫……三日月様に、少し返していただきましたので」
長谷部の大きな声に反応した桜華はそう言ってほほ笑んだ。
そしてその桜華の言葉に、そこにいた全員が一斉に三日月の顔を見つめる。急に集まった視線に三日月も驚いた表情を見せたが、クスッと笑ったかと思うと桜華の頭をそっと撫でた。
「ずいぶんと愛されているな。さすが、主」
頬を赤らめた桜華は、長谷部の胸に顔を埋め「……少し、休みます」と呟く。
「もちろんですっ!薬研、お前もついてこい」
長谷部は桜華を抱えて審神者部屋へと足を向けた。