第10章 其の十
刀台に置かれた一振りの刀をじっと見つめる桜華。
無理はしないようにと釘を刺されたがたったひと振り顕現させるだけである。無理も何もあるはずがない。しかし、夢で見たあの男士は一体……。否、夢で見た男士が顕現する確証もないのだが、なぜか今すぐに顕現しなくてはならないという使命感にかられたのだ。
様々な思いを巡らせながら、顕現を始める。
顕現部屋の空気が渦を巻き、外で控えている加州にも分かる程に襖が揺れ出した。
「主?主、何してるの?大丈夫??」
声を掛けてみるが返事はない。中へ入って行こうかとも迷ったが、力の動きを察知した他の男士達も部屋の前へ集まって来た。
「加州、何事だ!」
いち早く異変を感じた長谷部は顕現部屋の引き手に手を掛ける。それを止めたのは山姥切だった。続いて、薬研や堀川、和泉守も集まってくる。
「顕現中の入室はご法度だ」
山姥切の一声に、一同黙りこくるも抜刀し構える男子はいない。あくまでも顕現を行っているだけだと言い聞かせていた。
何かがあった場合の控えの者を置いているわけではあるが、こうして霊力と神気が動いている以上、桜華に何かがあったわけではない。いくつか設えた約束事と皆が待機する。
そして、一体どんな男士が顕現するのだろうかと緊張が走るのだった。