第5章 其の五
こんな毎日では心臓がもたない……心底そう思った。
襖一枚向こうには和泉守が待機している。その彼に唇を奪われた事は紛れもない事実で、毎度毎度、刀剣達に唇を奪われることにどうしてよいか分からなくなる。
彼らは自分の霊気を欲しているのか、もしくは自分に神気を送ろうとしているのか、はたまた何かの気まぐれか……呼吸を乱す桜華はその場に崩れ落ち、自身を落ち着かせることしかできなくなった。
ドキドキが止まらないこの気持ちは一体何なのだろうか……ずっと一人で暮らしていた桜華にとって、毎日刺激が強すぎて追いついていかない気持ちと身体に苛立ちすら感じてしまいそうだった。
顔を上げれば顕現を待ちわびる刀が目に入る。
歴史を守る……それが使命だったと思い出した桜華は己の気持ちを打ち払い顕現を行った。
日光り輝いた刀から現れ出でた刀剣男士……。
「へし切長谷部と申します……」
恭しく頭を下げる刀剣男士に桜華は思わず見惚れてしまった。
歌仙や和泉守とはまた違った感じの大人の雰囲気を纏っている。そして、主を重んずると述べるその口上にどこか安心感を覚えた。
一歩彼に近づいた桜華は、長谷部に向かって手を差し出す。
何をしたものかと一瞬困った顔をした長谷部は、その手をそっと取り桜華の前に跪いて小さな手の甲に唇を当てた。
そして、顔を上げた長谷部はこれで正解かと聞くがごとく桜華を見つめる。
「へし切長谷部様」
「長谷部とお呼びください」
「…長谷部様」
桜華の呼び方が気に入らなかったのだろうか、長谷部は小さなため息をついたものの、そのまま桜華の話を聞く体勢になった。
「長谷部様から見て、私は…私の霊力は弱いでしょうか?」