第5章 其の五
目の前にいる不安げな表情を浮かべた少女は本当に自分の主で審神者なのであろうか?
己を使う者というよりは、守らねばならぬもののようにも思えてしまうほど……か弱い。
決してそれは霊力がとか神気がとかそういう事ではなくて心が悲鳴を上げているようにも見えた。
「主、俺はたった今顕現されたばかりで、あなたがどんなお方なのか、どんな生活をしているのか全く知りません」
困った表情を浮かべながら長谷部はゆっくりと話し出す。
桜華の手はおそらく震えているのであろう、長谷部はその手を握ったまま彼女に目線を合わせた。
「ですが、あなたに顕現されて、あなたの霊力を注いでいただいたこの身体。とても力が漲っています。あなたの力が弱いなどという感覚は微塵もありませんよ」
その言葉に目を見開いた桜華はその真意を尋ねる。
「本当ですか?」
その小さな問いかけに長谷部は大きく頷き微笑みかけた。
長谷部の懐の大きさに安心した桜華が長谷部に自分の中で気になっていた事……つまりはキスによる神気のやり取りについてを話し始めると、思わず長谷部も赤面するが確かに目の前にいるこの審神者の唇は吸い付いてみたくなると思ってしまう。
審神者は自分の力不足のため刀剣達が神気を与えてくれていると思っているようだが、長谷部から見ればむしろ逆、もしくはただ単に審神者への信愛の証なのではないだろうかと思われた。
思わず見つめてしまった唇をそっと指で撫でてしまえば、桜華は驚いて身体を引いてしまう。
「すみません…」
長谷部も慌てて頭を下げ、桜華から少しだけ距離を取った。
互に赤面したままではあるが、長谷部は話を続ける。
「その口づけは、主の力不足ではなく……我らが主の力を欲しての行動かと思いますが」
右手を額に当てながら考え込んでいる長谷部。どうしたら上手く伝わるだろうかと悩んでいるようだ。
「私の力をですか?」
「先ほども言った通り、俺は今顕現されたばかりで真実は分かりませんが、今あなたの話を聞いていて、あなたの様子を見ていてそう感じました。どうしても気になるのであれば、やはり本人たちに聞いた方が……」
長谷部の答えに納得したのか桜華は彼に礼を言うと、皆に紹介するからと言い顕現部屋を後にした。