第5章 其の五
しっかりと抱き止められている手に桜華は緊張の色を見せ、表情を強張らせた。
先ほどこんのすけから言われたことが頭の中を駆け巡る……『主殿の霊力を刀剣達に注ぎ込み、それから鍛錬に励んでいただけば彼らの力の上がり幅が今までとは比べ物にならないほどに上がりますぞ』……つまりは、口づけなり、身体の交わりなりによって神気と霊力を注ぎ合えと、そういう事なのである。
意識するなと言われても意識してしまうのが乙女の性だ。
でも、自分が今できる事など限られている。できる限りの事を刀剣達にしてやらねばという使命も感じる。
桜華の頭の中はパンクしそうになっていた。
「主?」
そんな桜華の悩みを知るはずもない和泉守は抱きかかえたままの彼女の顔を覗き込む。ビクっと身体を震えさせた桜華は『大丈夫です』と一言だけ告げて下ろしてもらった。
乱れた着物の裾を直しながら和泉守に礼を言いその場を去る。
とにかく新しい刀を顕現しなくてはならない、そのことだけに集中することにした桜華。鍛刀された刀があるはずと、鍛刀部屋へ向かうがふと約束事を思い出す。
顕現するときは必ず誰かを傍に置くこと……。
一振りならば霊力を使い過ぎてまた倒れてしまうなんてことはないと思うが万が一があった場合、皆にまた迷惑を掛けてしまう。
しかし、今誰かと二人気にになるのも気まずい気がしてならない……。
考え過ぎなのは分かっているのだが……。
昨晩の加州とのこともあり桜華の頭の中はそんなことでいっぱいだった。