第3章 其の三
そっと唇を離すと、恥ずかし気に目を瞑ったままの桜華が見える。
そして、彼女は頬を紅く染めて肩を震わせていた。
「ごめんっ…その、主がかわいくて……そのっ……」
歌仙は慌てて弁解しようとし、桜華から身体を離して自分の顔を覆った。
「大丈夫です…歌仙さまも私の事を助けてくれようとしてくださったんですよね…。すみません、力足らずで皆様に迷惑ばかりかけてしまいます」
庭の方へ体を向けた桜華はそんなことを口にした。
一瞬、何を言っているのか分からなかったが、つまりは口づけによる神気のやり取りの話をしているのだと歌仙は覚る。
そう言うつもりで口づけをしたのではないと言えれば良いのだが、審神者と自分の関係を考えれば軽口を叩けるはずもなく、そのまま口をつぐんだ。
「でも、皆さんが私の事を考えたり優しくしてくださるのはとても嬉しいです。誰かに思われたり、誰かの事を思ったりするのは良いことですね」
濡れた唇をなぞりながらほほ笑む桜華に更に惚れてしまいそうになるのを堪えながら歌仙は頷いた。
「少し怖い夢をみて、眠れそうになかったのですが……歌仙様のお陰で寝付けそうです。ありがとうございました」
「そう、それなら良かった。おやすみ、主」
歌仙は桜華の額に優しく口づけを落とすと自分の部屋へと戻っていった。