第3章 其の三
桜華も審神者部屋に戻り水差しをサイドテーブルに乗せるとベッドに腰を下ろす。
小さなため息を一つ吐くと目を閉じた。
昼間の薬研といい、先ほどの歌仙といい、揶揄われているにもほどがある。自分はそうまで力不足であろうかと肩を落としたくなるのも無理はない。
「あ~るじ」
聞きなれた呼び声に顔を上げれば加州が扉から駆け寄ってきた。
「加州様」
「どうしたの落ち込んだ顔して?」
「……いえ、別に落ち込んでいたわけでは…」
「そう?ならいいけど」
加州は桜華の隣に並んで座りベッドの感触を確かめる。フカフカしていて面白いと桜華の仕事中にも昼寝に来ていることがあった。
「それより、どうしたのですか?こんな時間に」
確かに真夜中であり、女子の部屋を訪れるのは如何なものかと思われる時間である。
首を傾げた桜華に寄り添うように身体を近づけ、そっと腰を引き寄せ抱きしめた加州は彼女の耳元で囁いた。
「さっき、歌仙と2人で何してたの?」
チュッと耳朶に唇を当てられ、背筋がソワッと浮いた気がする。
「……お話していただけですよ」
加州の腕の中にすっぽり納まっている桜華は身動きを取ることもできずにそう答えた。
「本当は、もう少し2人きりで過ごしても良かったんだけど…主の事、独り占めしたかったな」
「加州様……」
「他の刀剣が増えても、俺の事捨てないで」
「捨てるだなんてとんでもないです」