君との距離は3yard 【アイシールド21長編R18物語】
第9章 怪我
「…これが全て。心配かけたく無かったから嘘を付いていた。でも…こんな怪我の出来事とか、アメフト部の皆には言いたくなかったから嘘ついたのもある。」
淡々とただ淡々とその一連の身の上話を喋っていた。
ヒル魔はシュガーレスガムを噛みながら黙って聞いていた。
関東大会前の心配かけないように気遣ってくれていた。
それは良い心掛けだと思う。
だが、何故自分だけで背負いこもうとしたのか。
そんな重い荷物を1人で背負わせる事が出来る方がおかしいと思った。
「やっぱ、馬鹿だな。」
「だって…この怪我の事はあまり知られたくないから…。」
「だからと言っても俺には言え。」
何か飲み物を用意してくれるのか彼女から背中を向ける。
「言わねぇともっと心配になるだろうが…」
抱き締め…はしなったが何かをしている彼の背中から伝わる彼の優しい気持ちに思わず笑みが零れる。
「悪魔の癖に…やっぱり優しいよね。」
「今頃か。俺は最初から優しいんだよ。」
トンと置いた飲み物は波音の好きなりんごジュースだった。
甘いものが嫌いな彼なのにいつの間にか口に合う飲み物を用意していて気が利くし、凄いと思う。
自分には出来ないだろうなと彼女は感心した。
そんな彼に何を思ったのやらりんごジュースを口に含み彼の肩を叩く。
"あ゙?"と母音に濁点が入った返事をしながら振り向いた隙を狙って波音は唇を重ねる。
ヒル魔が口を開いた瞬間、何か液体が入り込みそのまま喉を鳴らして飲み込んだ。
飲み込んだ瞬間波音を突き放してゲホゲホ、と噎せる。
「糞アマ…どういうつもりだ。」
「どう、美味しいでしょ。」
「俺は甘ぇのは苦手だって言ったはずだ。」
「少しでも甘いのを好きになって欲しいなぁ〜って。」
にこにこと笑うその笑顔はまるで子供のようだった。
とは言えど彼はさらに苛立った様子。
「俺にこんな事やるなんて覚悟できてんだろうな?」
「何の覚悟?分からないなぁ〜。」
怒っている彼を楽しげに揶揄う波音。
同級生だからこそ出来るのかもしれない。