君との距離は3yard 【アイシールド21長編R18物語】
第7章 泳ぎ舞う蝶
スポーツ用品店での買い物を済ませても彼女に笑顔が無かった。
「おい。」
ヒル魔が呼び掛けても波音は右腕を抑えながら下を向いたままだ。
堪らず、彼は背中を強く叩く。
「ふぎゃあ!」
後ろからの痛みに背中が伸びてぴょんぴょん跳ねる。
「な、なな、なにいきなり
叩いてんだよ…!」
「ずっと呼んでんのになんで気付かねぇんだよ!」
「ご、ごめん!考え事してたよ…。」
ケラケラと彼女は笑う。
大袈裟に思えるぐらいの大きさで笑う。
てめぇの笑いはそんな不細工じゃねぇだろ。
なに俺に隠し事してんだよ。
ヒル魔はそんな彼女の態度をただ黙って見ているだけだった。
──────
波音は自宅に帰ってすぐに腕の包帯を取る。
腕には生々しい手術の傷跡が残っていた。
「あんたの事、死ぬまで逃がさないから。」
先程の言葉が頭を過ぎる。
手がまたプルプルと震える。
あいつの事だからアメフト部の人達にも危害を加えるかもしれない。
そんな…これから関東大会なのに。
「学校…辞めようかな。」
彼女は静かに涙を流したのだった。