君との距離は3yard 【アイシールド21長編R18物語】
第7章 泳ぎ舞う蝶
「え…?」
聞き覚えの有る声がして振り返る。
「み、南…ちゃん?」
ニコニコと可愛らしいガーリーな洋服の姿で現れた女の子。
波音は絶望感に満ちた顔をする。
「やっぱり!お久し振りですぅ」
彼女の怪我している右手を取って満面の笑みで南は握手を交わす。
「先輩。」
その一言がとても冷たく、恐ろしかった。
それと同時に手に激痛が走る。
「ってぇ!」
ブォン、と凄い音を出して波音は勢い良く手を振り払った。
「あはは、ごめんなさぁい。先輩と会えるのが嬉しくて嬉しくて。学校辞めて何処に行ってるんですかぁ?あれから私とか部員の皆心配してますよぉ〜?」
「そ、それは…」
「でもその怪我じゃもう試合も出来ませんしねぇ〜。一生使えないし。あ、良かったんじゃないんですかぁ?手術して神経は取り戻せたんだから。」
左手で右腕を覆ってる服をぎゅっと掴む。
しかし彼女を追い詰める言葉はまだまだ続く。
「先輩のお蔭で、私が日本選手権で優勝して世界選手権行けるようになったんですから感謝感謝ですっ!」
「…良かったな。」
「でもね、先輩がいなくなってからの水泳部って凄く楽しいんですけど、何か物足りなくて。で、先輩がちょー馬鹿な泥門高校にいるって知ってからどうやって会いに行こうか迷っていたんですけどぉ…こんな所で会えるなんて本当に嬉しくて嬉しくて!」
だから、と彼女は波音の耳元で囁く。
「あんたの事、死ぬまでずっと逃がさないから。」
波音聴いた途端背筋が震えた。
「あ、私、これからまた練習なんです!日本代表として恥じない泳ぎをしないと!また会いましょうねっ!ばいば〜い!」
南がその場から去っても彼女の手は震えていた。
「なんで、あいつが…。」
完璧に怯え切った顔をしてその場に座り込む。
そんな悪夢の一部始終を遠くから彼は見ていた。
声は聞こえなくてもヤバい事だと言う事はすぐに分かった。
「…調べてみっか。あいつと餓鬼。」