君との距離は3yard 【アイシールド21長編R18物語】
第3章 恐れ
片手でもサッと作れるのは野菜炒め。
最近漸く片手でもこなせる仕事が多くなった。
怪我をしてからずっと練習していたからだと思う。
「文句は言わせないからな。片手で作れるのは野菜炒めだけだし。」
「俺はもう食べたから要らねぇ。」
「え!うそぉーん。早く言ってよ。妖ちゃんの分まで作っちゃったじゃないの。」
「お前が作るよりも俺が作った方が美味いぞ。」
「あんたの手料理なんて食べた事ないわ。」
「ケケケ、そうだったな。俺の手料理なんて一生食えないと思うぞ。」
「大量のわさびとか入ってそうで食べたくない。」
「そんな子供騙しみたいなもの入れねぇよ。ハバネロだったら入れるかもな。」
「あ、あたし食べたら死ぬわ。」
そんな冗談半分な会話を交わしながら自分だけの食事になるなら後ででもいいと思った波音は空のお茶碗などを台所へと引っ込めた。
彼は一回中断していたパソコン作業を再開する。
「コーヒーでいい?」
「要らね。」
「まぁ、そう言わずに。」
ドリップしたコーヒーをマグカップ注ぐ。
コポコボと心地良い音が部屋に響く。
ブラックコーヒーをテーブルの上に置いても彼はパソコン作業を辞めない。
人の話を聴く時ぐらいパソコン辞めない?
そう言っても彼は多分言うことを聞いてくれないだろう。
流石にブラックで飲むのは厳しい為、自分用に入れたコーヒーはミルクと砂糖を入れて甘くする。
こんなに苦いのに彼は悠々と飲んで少し羨ましい。
甘くしたコーヒーの1口目をゆっくりと運び、ゴクっと小さく喉を慣らしてから彼女は静かに話し始めた。