君との距離は3yard 【アイシールド21長編R18物語】
第2章 100%の努力
「妖、ちゃん…。」
「ケケッ、変な顔だな。」
彼は既に涙が溢れてぐちゃぐちゃな表情になってた自分を見て笑いながら頭を荒く撫でると爪が入り込んで赤くなった拳を開かせた。
「相変わらず小さい身体しやがって…俺の服で拭くんじゃねぇぞ、汚れるから。」
「…分かってるもん。」
右腕を優しく触られる。その瞬間言葉にならない程の激痛が走った。
「あの大会の結果だけじゃねぇってことか…。」
「っ…あんたには叶わないね…。」
長年水泳で酷使してきた腕が限界を超え、あの選手権大会後に完全に壊れてしまった。利き手ではないが右腕を上手く動かせず不便だ。
…でも本当はそれだけじゃない。
「なんで怪我してんだ。」
「…前方不注意で階段から転んだ。自分が悪いんだ。」
「…」
「その怪我の状態で試合に出て完全にぶっ壊れた。…ただそれだけの話だよ。」
その言葉の後に数秒間沈黙が訪れた。
そりゃあそうだよね。
しかし沈黙を悪魔は躊躇いもなく破る。
「ま、どういう事であってもここに来た以上、俺のチームで本気でマネやれ。拒否権はねぇ。てめぇも一緒に地獄みんだよ。」
「…ばーか。もうその気だっつーの。」
「泣き虫の癖に男っぽい性格と口調しやがって…直す気ねぇのか?」
「ない。これが自分だもん。」
「…生意気だな。」
「そんな子を放っておけない悪魔くんはどこの誰でしょうか?」
「ケケケ、メンタル弱くても口だけは達者になったじゃねぇか、NAME1#。」
こういう時に彼があたしの名前を呼んでくれるのは最高に嬉しかったりする事を意味している。
人を脅したり、ビビらせたりして、悪魔な癖して、自分のやりたい事を一途にのめり込んで、1%勝利が見えるなら諦めない彼は尊敬していいところだと思う。
…勝率0%って分かった瞬間に諦めるのは良くないとは思うけど。
でも、悪魔が必死に勝利に向かって行く姿を見るのが私は好きだった。
性格も口調も酷いけど、それでも私は彼のことを密かに思っていた。
でも彼はきっとなんとも思ってないのだろう。友達…と言うよりかは悪友なのかな。
悪友以上ではあるが恋人未満。
この状況にいつまでも浸っていたい。
夢なら覚めて欲しくない。
あぁ、神様。どうか今回だけは。
静かに見守って欲しいと願うばかりだ。