第1章 俺の帰り道。
「でも、外でそんなふうに眠るなんて、危険だぜ?やめておいた方がいいって。」
瀬呂は大きく咳払いをして、気を取り直す。
ここはヒーロー科として、自衛の念を持てと言っておかなければ。
「あ、あれだよ!ナニがアレして…間違っちゃうかもしれないだろ!」
「ナニが…アレ……」
瀬呂は、できるだけ遠回しに、彼女の身に起こりうる自体を訴える。
“ナニがアレ”
これが最大限に出来るオブラートだった。
彼女はふむと頷くと、くっと瀬呂の方を向く。
「貴方が言いたいこと、なんとなく分かったわ。襲われたら危険ってことよね。」
「…俺のオブラートボロボロじゃねぇか。」
瀬呂は、がっくしと頭を垂れる。
そんなことを気にもとめないで、彼女は続けた。
「よく言われるのよ。自慢に聞こえたらごめんなさい。私って、顔の造形が整ってるじゃない。だから、いろんな人に性の対象として見られることが多くて。」
なんの表情も変えずに続ける彼女に、瀬呂は完全に理想を壊していた。
美人だけど、ちげぇ。
これは残念な美人だ。
美人という理想が、ボロボロと崩れていくのがわかる。
「…でも、だからこそ心配だって」
「心配してくれたのね、ありがとう。でも平気よ。」
彼女の目が夕陽にきらと印象的に光る。
この時瀬呂は感じた。
この子、めちゃくちゃ強い個性を持ってるとか、超強いとかそういう展開絶対くるよ。それであれだ、俺引き立て役になるやつだ。
という嫌な予感を。
しかし、彼女の返答は、そんな普通な瀬呂くんの言葉を軽く凌駕するものだった。
「叫べばいいのよ。」
「へ?」
「“マタがカユい”って。できるだけ、投げやりに。」