第1章 俺の帰り道。
「なにしてた…んすか?」
ベンチで横並びになって、ふたりは静かに会話を始める。
ふたりの会話の合間には、カラスがカーと鳴いているだけ。
「電車を待っていたの。」
「電車?」
ぼーっと言葉を繋げる彼女に、瀬呂は返事をする。
「私の家近くって、結構田舎なものだから。各駅停車の電車しか止まらないのよ。」
「へぇ。じゃあ駅で待ってれば良かったんじゃ…」
「公園が、いいところにあったから。そこで待てばいいかなと思ったの。」
「ほ、ほぉ…」
会話のキャッチボールが成り立っているのか不安な瀬呂は、なんとなくな返事を続ける。
「そしてベンチにすわったら、どうしてか寝てしまっていて。」
「寝て!?」
「それで、目が覚めて、喉が渇いたなと思って給水所へ…」
マイペースすぎる彼女は、表情ひとつ変えずに語る。
瀬呂は心配を滲ませて、言葉を返した。
「まさかあんなことになるなんて……。心底驚いているわ。」
「それが顔に出てないんだよなぁ。」
「そうかしら、全身全霊で驚きを表現したと思ったのに。」
「全身全霊が弱いなぁ…」
「でも、貴方がいてくれて助かったわ。ありがとう。」
彼女はそう言うと、瀬呂に向かってニコリと笑う。
美人の笑顔はやっぱり破壊力抜群で、瀬呂の心臓は不本意にも跳ね上がった。
こんなにエキセントリックな美人、初めて見たものだから。
瀬呂の心臓は必死に悲鳴をあげていた。