第2章 艶羨は白煙の中に
ひとつの深呼吸を落とし、xxxxは歌を歌い始めた。
異国の言葉だった。
曲調からして鎮魂歌だろう。
感情いっぱいに、青空まで届きそうなほど伸びやかな声を響かせる。
言葉の意味は理解できない。
それでも、大切な誰かを探しているような、行き場の無い感情をぶつけるような叫び。
やり場のない感情を必死に抑え、気丈に振る舞う姿を受け止めてくれるような声。
そして、悲しみを忘れようと必死に前へ進みもがく人々に、覚えてていい、と言ってくれていた気がした。
気が済むまで忘れなくていい、そう優しく語りかけているようだった。
気付けば皆涙を流していた。
街の人々だけでなく、騒ぎを聞きつけたマスコミも、海軍も、皆等しく泣いていた。
怒り、悲しみ、あらゆる感情を、xxxxの歌が浄化していく。
様々な立場の人間が、様々な理由で傷つく戦争の後、どんな慰めの言葉も意味を成さないことを知っていたからこそ、異国の言葉を贈ったのだろう。
2羽の白い鳥が、青空に高く高く飛んでいった。
*
翌日、この日の出来事は、xxxxの七武海入りと同時に大きく報じられた。
七武海加入に関しては、裏切り、スパイ潜入、政府の陰謀論など様々な考察が展開されている。
また、戦争で傷を負った人々の心を癒したのは、皮肉にも海軍ではなく、一人の海賊だったとも綴られた。
xxxx自身は白ひげやエース、ここを訪れた麦わらへ、仲間へ、歌を介して決意を伝えに来たのだろう。
麦わらと同じやり方をしたことが、そうであろうことを示している。
xxxxが舞台を降り麦わらの一味へ加わったのは、龍騎士の末裔であることが明るみに出たことが原因とされていた。
しかし、その程度で世界的な存在である舞台女優が失墜するとは思えなかった。
何か別の理由があるような気がした。
麦わらとは、xxxxにとって一体何なのだろう。
xxxxが身を寄せたのは海軍ではなく、海賊だったという事実が、今になってもやもやと引っかかる。