第5章 知り得ぬ色が在るとしたなら
騒ぎの場所は簡単に見つかった。
商店が建ち並ぶ、それなりに賑わった通りだ。
その一角、ある酒場の出入口で、今まさに誰かが投げ出されている。
店の中からは、ベラミー、サーキース、見覚えのある部下たちがぞろぞろと続いて出てきた。
俺はこの光景がよく見える、高い建物の屋根を選び降り立つ。
野次馬も含めた皆ベラミーたちに夢中で、俺の存在には誰も気づいていない。
先ほど投げ出された奴らは、件の麦わらとその右腕の剣士だった。
ベラミーたちにやられたのか、傷だらけの身体は血が滴り、意識はあるものの、地面に横たわって苦しそうにしている。
チンピラ程度にやられるようじゃ拍子抜けだが、様子を見るにどうもそうは思えなかった。
遅れて店から出てきた橙色の髪の女が麦わらたちに駆け寄り、なぜ反撃しないのかと叫んでいる。
おそらく麦わらの仲間だろう。
その様子に、俺はこの喧嘩の経緯を何となく把握した。
矢先、煽られてつっかかった女がベラミーの手下と言い合いになっていた。
手下の大男が反撃しようと女に手を挙げたその時、その手を制した者がいた。
「この喧嘩、船長は買わないと言った。お前が手を出すなら、個人的に私が買おうか」
xxxxだ。
喧騒を打ち消す透き通った声、氷のように美しい瞳。
美術品のように美しい顔は感情の読み取れぬ表情を纏い、喧嘩も当然勝つ気でいる物言いで、その細腕は大男の腕をギリギリと締め付けている。
手下はぴくりとも動かない、いや、動けないのだ。
xxxxの美しさに惑わされたからじゃない、腕力と威圧感に気圧されたのだ。
「最高だ…」
俺は、笑みを零さずにはいられなかった。
これがあの舞台女優の本来の姿だというのなら、世界中がその演技力に騙されていたというわけだ。
まるでどんな色も表現できる芸術家のごとく。